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東京大学大学院 中須賀教授との特別対談【番外編】

「日本流DX」を考える 東京大学 中須賀教授 × アドソル日進 浜谷部長 対談(番外編)

対談概要


「技術向上度=(1+a)N」。「N」を飛躍的に加速させる武器こそ「IT」

――対談の中で「ITはツールだ」というお話がありました。最近話題の「DX:デジタルトランスフォーメーション」も「デジタルの力で社会や企業の変革を実現する」ことが目的ですから、やはりITはそのための「ツール」だと言えますね。

中須賀
そうですね。DXは技術ではなく「考え方」です。体制から仕組み、考え方まで変えないと、本当の意味でのDX効果は出てきません。「ITでどういうことをやっていくのか」をきちんと理解した上で、設計から試行錯誤を繰り返し、その中でそれぞれの分野に合うやり方を見つけるというプロセスを回さなければいけません。

浜谷
中須賀先生はよく「技術向上度=(1+a)N」で表すことができるとおっしゃっていますよね。aは1回の実証における技術の向上度、Nは実証の頻度であり、「N乗のNを早く回すためのものがITだ」と。この計算式で考えると、N、つまり「試行回数」がどれほど大事かよくわかります。ITそのものがNでもあるし、ITを活用することによってIT以外のNも増やせる。

技術向上度=(1+a)N

中須賀
日本人は本来、一発勝負が苦手です。むしろ目の前に実物、現実を突きつけられたほうが強い。結果をもとにした「改善」を行うための「繰り返しのマメさ」は世界一ですよ。そう考えればPOCの結果どうだったか、良かったところ、足りないところを見て修正していく、これをうまくできれば日本はもう一回復活できると思っているのです。今、欧米流の一発勝負というやり方に日本は寄せすぎているところがある。 大きなイノベーションである必要はないので、ちょっとした工夫を繰り返して、少しずつ改善されて磨かれていく、この改善の回数の多さで日本は勝負していくべきだと思っています。

浜谷
一発勝負が苦手、ですか。それでいくと、最近DXに関連してよく耳にする「真のイノベーションとは」といったビジネスモデルや、発想の根本からの転換重視も、あまり行き過ぎると日本的ではないのかもしれませんね。 ちょっとした改善を「それはイノベーションじゃない」と切り捨てるのではなくて、繰り返していくことが大事だと。

中須賀
日本人が得意な思考方法で、どうイノベーティブにしていくか、このプロセスを考えたほうが絶対にいい。宇宙開発はそうしたいですね。

浜谷
そういうアプローチであれば、ITの貢献余地はかなりありそうな気がします。

中須賀
先ほど言っていた計算式の繰り返し数「N」をITで増やせるということですから、ITをどう使うのかを考えることはとても大事なことです。欧米のやり方に踊らされない。DXも日本流のDXを作らないといけないなと思いますね。

浜谷
日本流ですか。今は、デジタル化だけではだめで、トランスフォームしなければいけない、デジラタライゼーションしなければいけない、などと一言でまとめられがちですが。

中須賀
欧米のコンセプトですからね。ニュアンスとして使ってもいいですが、日本流のやり方を捨ててしまうとどんどん弱くなりますよ。日本は外から来たDXみたいな言葉に弱いですし。

浜谷
確かに弱いですよね、国も例外ではない。

中須賀
それによって日本の強み、大事にしていたものを消されてしまうことが一番怖いですよ。

浜谷
IT企業も気を付けないといけませんね。小さな改善の繰り返しよりも画期的な効果を求めがち。

中須賀教授

中須賀
POCを繰り返して改良・改善するプロセスをいかに加速して、手間なくできるようにしていくか、という視点のほうが大事かもしれません。 また、結果をどう見せるかも大事ですね。たとえば、私は衛星開発の過程でデジタルツインを取り入れたいと思っていますが、修正を繰り返して改良する、というプロセスを成功させるためには、最初にある程度仕上がりをイメージできるものがバーンと見えたほうがいいなと。おそらく日本人がハードウェアを作りたがるのは、ハードウェアを作るといろいろな課題が見えて考えやすくなるからなんですね。ITの世界でもハードウェア的に考えて日本人の思考、あるいは「修正したい」というモチベーションをくすぐれる何かを早い段階で見せられるといいのかもしれません。

浜谷
確かに。私がソフトウェアで一番好きなのは組込みなのですが、モノ、ハードとソフトがくっついているから現実味があるんですよね。

――資料作成も似たところがありますね。8割くらいまで一気に仕上げて、完成に向けての残り2割の部分で細かくアップデートを繰り返していく......。

中須賀
それが「マメな日本人」ですよ。欧米人は「ここまででいいや」と思ったら遊びに行きます。でも日本人は「もっといいものを......!」と、遊ぶ時間を削ってでもやる。日本人にはそのマメさがありますから、活かさないといけない。でも毎回手作りしていたら回りませんから、いかにITの力を借りるか、ということです。

浜谷
単に式やグラフではなく、「ここに、ほら」と示す。「マメさ」のステージに行くためには「見える化」が必要だと。大切な視点ですね。

中須賀
日本人のいわゆる「修正マインド」、つまり「もっと良いものを作りたい」という気持ちをくすぐれるといいですね。前よりちょっと良くなった、それはなぜか? と、さらに追求し深める、これが日本人は好きなんです。小惑星探査機「はやぶさ2」が成功したのも、この追求し深めるプロセスが取り入れられていたからですよ。惑星探査を成功させ帰還した「はやぶさ2」と、惑星周回軌道に入れなかった火星探査機「のぞみ」、金星探査機「あかつき」の違いがわかりますか? 惑星の周回軌道に入るまでが一発勝負だったかどうかです。「はやぶさ2」は何十回とリハーサルを繰り返せるようになっていて、試行するうちにプログラムが研ぎ澄まされていったから成功したのだと思っています。「リハーサルが山のようにできる」、これは日本人の強さを活かす源です。

浜谷
浜谷
「はやぶさ2」が様々なトラブルに打ち勝って帰還できたのも、そうした「繰り返し」があったからなのでしょうか。

中須賀
トラブルが起きる前から、試行を繰り返していましたからね。結局は繰り返しの回数です。その意味で「はやぶさ2」は極めて良いミッションでした。モノづくり、社会システムにしても、こうした「繰り返しの強み」を活かす形にすることが、日本復活の第一条件ではないでしょうか。

浜谷
たとえば「ソフトウェア・ディファインド "XX"」の"XX"の部分を増やしていく、というのも当てはまりそうですね。後から追加していく。

中須賀
おっしゃるとおりですね。たとえば日本人は「とりあえずビール」が好きでしょう? とりあえずビールを飲みながら次を何しようかと考える。最初に全部メニューをそろえて、などというやり方は、本来苦手なんですよ。

浜谷
とりあえず最低限のものを揃えて、後はソフトウェアで試行錯誤できるような道を残していければいいですね。

中須賀
ITはぜひそういう方向に持って行ってほしいと思っています。

――今の日本のシステム開発は、最初に要件を全部決めて、大きな画を描いてから作っていく「ウォーターフォール型」の手法が主流で、アジャイル型はまだ少ないような......。

中須賀
それ(ウォーターフォール型)、日本人は苦手じゃないですか? 最初の設計通りに進みます? 作っているうちにいろいろ課題が出てこないんですか?

浜谷
間違いがないように用意周到に準備するので、とても時間がかかります。大きな案件だと何年がかりのプロジェクトになることもありますね。

中須賀
それも、僕は欧米流のやり方に踊らされているんじゃないかと思いますけどね。町工場などは「まあ作ってみるか」から始まっているわけでしょう。日本は欧米の力に弱いから、欧米がやっているフォーマットに全部合わせようとしちゃってね。 ロジカルシンキングや、ある一定の式を基に解を導くプロセスでは欧米に勝てない。だったら違う土俵で勝負する。論理的思考力ではなくて、修正のマメさで勝負する。これが僕は日本流だと思いますよ。

浜谷
試行錯誤を繰り返す、という意味では、確かアジャイルは日本企業にルーツがあるという見方もありますよね。初めてアジャイルの勉強をした時にそれを知って、日本でなかなか進んでいないことに愕然としました。 宇宙開発でもシステムインテグレーターやAIが大事といわれていますが、おそらく従来型の「SIer:システムインテグレーター」とは異なるマインドが必要になると思うのです。システムインテグレーターも今後変わっていかないといけない。 今回講座を通じていろいろな観点から様々な話を聞くことができ、学生さんだけではなくて、我々も変わっていかないといけないと思っています。

――本日は大変貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

中須賀 真一(なかすか・しんいち)

大阪府出身。83年、東京大学工学部航空学科卒業。88年、同大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)。日本アイ・ビー・エム株式会社に入社後、人工知能や自動化工場に関する研究を行う。90年、東京大学に戻り、航空学科講師、同大学先端科学技術研究センター助教授、アメリカでの客員研究員を経て、2004年、東京大学航空宇宙工学専攻教授に就任。専門分野は宇宙工学と知能工学。

中須賀教授と浜谷

浜谷 千波(はまたに・ちなみ)

千葉県出身。東京大学工学部航空学科卒業、同大学院工学系研究科航空学専攻博士課程修了(工学博士)。 日本アイ・ビー・エム株式会社で長年組込みソフトウェアを中心に研究・開発に携わり、2014年アドソル日進株式会社に入社。AI研究所部長(現職)。産学官連携の機械学習品質マネジメント検討委員。現在の研究テーマは、コーザルAIと衛星データへのAI活用。


取材協力:
東京大学工学部
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe
東京大学大学院工学系研究科
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/soe